輪廻転生について考えてみよう。
輪廻転生の仕組みを理解することは容易なことではない。これはひじょうにユニークな発想の上に成り立った仏教思想である。輪廻とは、前世(ぜんせ)によって決定される次の生命、次々と引き継がれてゆく生きとし生けるものの生命のことである。
この思想自体は、チベット仏教や、古くからインドの思想、哲学を信じる人たちにとって、別段目新しいことではない。しかしながら、チベットは、もちろんそこにはモンゴルなども含まれるのだが輪廻転生の受容に関して、他とは異なる仕組み、あるいは伝統を創設したと言えるだろう。
とはいえ、それは仏教哲学、あるいは仏教的なものの観点から見て、けっして特別にユニークなものではない。誰にとっても充分に受け容れられるものであろう。
ドイツ人のラマ僧、アナガリカ・グヴィンダはこう書いている。
《死から立ち戻った者がいない以上、誰も権威をもって死について語ることはできないと言われる。いったいどうやって、死とは何か、死後に何が起こるかを語りえようか
。
だが、チベット人はこう答えるでああろう。実際に、死から立ち戻らなかった人間、この世に生命を有する生き物など、ひとつとして存在することはないと。事実、われわれが誕生と呼ぶものは、単に死の裏返しであるにすぎない。それはちょうど、ひとつのドアを外側からは入り口と呼び、内側からは出口と呼ぶように、同じコインの表裏を言い表しているのである》
彼らにとって輪廻は自然の法則のようなものである。チベット人だけでない。インドの大多数の人々の大多数の人々も、輪廻をごくあたり前のこととして受け入れている。
第二章 輪廻転生の法則
転載:『ダライ・ラマ「死の謎」を説く』 ダライ・ラマ14世、大谷幸三 角川ソフィア文庫 2008/07/25
(底本:ダライ・ラマ14世、 大谷幸三 『ダライ・ラマ「死の謎」を説く』(クレスト社 1994年刊)
転載:『ダライ・ラマ「死の謎」を説く』 ダライ・ラマ14世、大谷幸三 角川ソフィア文庫 2008/07/25
(底本:ダライ・ラマ14世、 大谷幸三 『ダライ・ラマ「死の謎」を説く』(クレスト社 1994年刊)