個人番号は全国民につけられるものの、自治体から送られてくる通知カードの受け取り拒否が可能であることを、政府は伝えていない。玄関先で簡易書留を受け取らなければ、カードは発送元の役所で一定期間を経てから廃棄される。実際2015年12月の時点で、受取人不在のため全国の郵便局に留め置きされている通知書は558万通を超えているという。
「でもマイナンバーを求められて記入しなかったら罰を受けるのでは?」
そんな不安の声があちこちで聞こえるが、実はマイナンバーを記入しなくても法律上の罰則はなく、当面は不利益を被ることもない。
株の配当金や保険金を受け取る際にマイナンバーを提出しなければならない義務もなく、2015年5月に125万人分の個人情報流出事件を起こした日本年金機構にいたっては、年金を請求する際に「番号を書かないよう」呼びかけているという。
だがこうした事実を多くの国民が知らないにもかかわらず、政府側にはすでに今後マイナンバーに搭載される追加情報の青写真ができている。
例えば2015年6月30日に閣議決定された「日本再興戦略 改訂2015」や「世界最先端IT国家創造宣言 改訂」に書かれているのは、2017年度以降に検討されるマイナンバーを「運転免許書」「教員免許」「医師免許」「卒業証書」など各種IDと一体化させる案もある。
このまま行くとここ日本で、世界でも類を見ない広範囲な個人カードが誕生することになる。一元化された国民の情報は、その中身が詳細になるほどに、ビジネスだけでなく政府にとっても都合がよい。そして多くの国民は気づいていないが、マインバーのような制度は時間がたてばたつほどその危険性を増してゆく。何故なら法律とは成立時に緩(ゆる)めに作っておき、後からどんどん中身に手を加えられるからだ。
例えば2015年9月、「マインバー法改正法」とセットで成立した「個人情報保護法改正」はその一つだろう。この改正法によって企業は取得した個人情報を匿名加工さえすれば、本人の同意なしでビジネスに変更できるようになった。この匿名加工技術には限界があり、複数のデータを組み合わせれば個人が特定できてしまう。
費用対策効果に見合わないコストと、漏洩リスクがあまりにも大きすぎる<マイナンバー制度>。前述したNHK解説委員の「先進国で導入していないのは日本くらい」のような言葉だけで皮膚感覚的にイメージせず、できるだけ多くの情報を集め、この制度が持つ目的とリスクを予測しよう。「消えた年金事件」を思い出すとわかるように、あとで何かが起こっても誰も責任はとってくれないからだ。
完
転載:「『政府は必す嘘をつく 増補版』 袋とじ」 堤 未果 (角川新書) 2016/04/09
「でもマイナンバーを求められて記入しなかったら罰を受けるのでは?」
そんな不安の声があちこちで聞こえるが、実はマイナンバーを記入しなくても法律上の罰則はなく、当面は不利益を被ることもない。
株の配当金や保険金を受け取る際にマイナンバーを提出しなければならない義務もなく、2015年5月に125万人分の個人情報流出事件を起こした日本年金機構にいたっては、年金を請求する際に「番号を書かないよう」呼びかけているという。
だがこうした事実を多くの国民が知らないにもかかわらず、政府側にはすでに今後マイナンバーに搭載される追加情報の青写真ができている。
例えば2015年6月30日に閣議決定された「日本再興戦略 改訂2015」や「世界最先端IT国家創造宣言 改訂」に書かれているのは、2017年度以降に検討されるマイナンバーを「運転免許書」「教員免許」「医師免許」「卒業証書」など各種IDと一体化させる案もある。
このまま行くとここ日本で、世界でも類を見ない広範囲な個人カードが誕生することになる。一元化された国民の情報は、その中身が詳細になるほどに、ビジネスだけでなく政府にとっても都合がよい。そして多くの国民は気づいていないが、マインバーのような制度は時間がたてばたつほどその危険性を増してゆく。何故なら法律とは成立時に緩(ゆる)めに作っておき、後からどんどん中身に手を加えられるからだ。
例えば2015年9月、「マインバー法改正法」とセットで成立した「個人情報保護法改正」はその一つだろう。この改正法によって企業は取得した個人情報を匿名加工さえすれば、本人の同意なしでビジネスに変更できるようになった。この匿名加工技術には限界があり、複数のデータを組み合わせれば個人が特定できてしまう。
費用対策効果に見合わないコストと、漏洩リスクがあまりにも大きすぎる<マイナンバー制度>。前述したNHK解説委員の「先進国で導入していないのは日本くらい」のような言葉だけで皮膚感覚的にイメージせず、できるだけ多くの情報を集め、この制度が持つ目的とリスクを予測しよう。「消えた年金事件」を思い出すとわかるように、あとで何かが起こっても誰も責任はとってくれないからだ。
完
転載:「『政府は必す嘘をつく 増補版』 袋とじ」 堤 未果 (角川新書) 2016/04/09